自己肯定感とは何か?正しい意味と誤解

「自己肯定感を高めよう」「自己肯定感が低いから自信が持てない」といった言葉を、SNSや自己啓発本などでよく目にするようになりました。
しかしその一方で、
- 「自己肯定感=自分を甘やかすこと」
- 「自己肯定感が高い人は自信過剰」
といった誤解も根強く存在しています。
本記事では、「自己肯定感とは何か?」を心理学的観点から丁寧に解説し、広まりがちな誤解を解きほぐしながら、私たちが日常生活の中でどのように自己肯定感を育んでいけるのかについて考えていきます。
自己肯定感とは?
自己肯定感の定義
自己肯定感とは、自分自身の存在や価値を肯定的に捉える感情や態度のことです。
もっと端的に言えば、「自分はこのままでいい」「自分には価値がある」と心の底で思える感覚を指します。
心理学者の高垣忠一郎(1993)は自己肯定感を、「自己を価値ある存在として肯定的に受け止める感覚」と定義しています(高垣, 1993)。
また、国際的な心理学の研究では、自己肯定感(self-esteem)は「自分自身に対する全体的な評価」とされています(Rosenberg, 1965)。
自己効力感との違い
自己肯定感と混同されやすい言葉に「自己効力感(self-efficacy)」があります。
これは、「自分には何かを達成できる能力がある」と信じる感覚で、アルバート・バンデューラによって提唱されました(Bandura, 1977)。
自己効力感が「できるかどうか」に関する感覚であるのに対して、自己肯定感は「できてもできなくても、自分には価値がある」と思えるかどうかです。
自己肯定感に関する誤解
自己肯定感について広まっている情報には、いくつかの誤解が含まれていることがあります。
以下では代表的な誤解を取り上げ、それに対する正しい理解を紹介します。
誤解①:自己肯定感が高い人は自信家である
確かに、自己肯定感が高い人は自分に対して前向きな感覚を持っていますが、それが即「自信満々」「傲慢」とは限りません。
むしろ本当の自己肯定感は、自分の弱さや失敗も含めて受け入れる姿勢に近く、謙虚さとも共存します。
誤解②:自己肯定感を高めるには成功体験が必要
成功体験が自己効力感を高めることにはつながりますが、自己肯定感は「何かができるか」ではなく「存在そのものの価値」を認める感覚です。
したがって、失敗の中にいても自分を認められることが自己肯定感の本質です。
誤解③:自己肯定感は常に高い方が良い
自己肯定感が過剰になると「自分は常に正しい」と思い込み、他者への共感力が下がるリスクがあります。
実際のところ、安定した自己肯定感とは、揺れ動きながらも回復可能な感覚であり、無理に「高く保つ」必要はありません。
自己肯定感の心理学的背景
自己肯定感の発達
自己肯定感は生まれつき備わっているものではなく、乳幼児期の養育環境や人間関係の中で育まれていくものです。
特に、親や保育者からの「無条件の受容」が重要であると指摘されています(Rogers, 1951)。
これは、「何かができたときだけ褒められる」のではなく、「存在しているだけで大切にされる」という経験が自己肯定感の基盤になるという考え方です。
自己肯定感とメンタルヘルス
自己肯定感の高さと心理的な健康には密接な関連があると、多くの研究が示しています。
例えば、自己肯定感が高い人ほど、うつ病や不安障害のリスクが低いことが報告されています(Orth & Robins, 2013)。
さらに、自己肯定感が高いとストレス耐性が向上し、対人関係でも安定した対応ができるようになるというメリットもあります。
自己肯定感を高めるには?
自己肯定感は一度形成されれば永久に保たれるものではありません。
日々の経験や人間関係によって上がったり下がったりします。
ここでは、日常生活の中で自己肯定感を育てるための実践的な方法を紹介します。
完璧主義を手放す
「もっと頑張らなければ」「まだ足りない」といった思考は、一見向上心に見えて、実は自己否定の裏返しです。
100点を目指すのではなく、「60点でもいい」と思える柔軟性が、自己肯定感の安定に繋がります。
自分の感情を否定しない
ネガティブな感情を持ったとき、「こんなことを考える自分はダメだ」と思わず、「今、悲しいと感じているんだな」と受け止めることが大切です。
感情にラベルを貼るだけでも自己理解が進み、自分を受け入れやすくなります。
小さな達成を積み重ねる
「朝起きられた」「挨拶ができた」といった小さなことに目を向け、自分を認める習慣を持つことで、日々の中に自己肯定の感覚を育むことができます。
安心できる人間関係を築く
自分の存在を否定されるような人間関係の中では、自己肯定感を保つのは困難です。
安心して話せる人、ありのままの自分を受け入れてくれる人との関係は、自己肯定感の「土壌」となります。
自己肯定感は「育てる」もの
自己肯定感は、生まれつき高い・低いといった固定的な性質ではなく、日々の関わりや自分との対話を通して「育てていく」ものです。
たとえ今、自信が持てなかったとしても、それは自己肯定感がゼロという意味ではありません。
むしろ、自分に向き合おうとするその姿勢こそが、自己肯定感の芽生えとも言えるでしょう。
自己肯定感は、誰にとっても人生をよりよく生きるための土台です。
「ありのままの自分を受け入れる」ことを、少しずつでも実践してみませんか?
参考文献・引用
- 高垣忠一郎(1993)『自己理解と自己受容』金子書房
- Rosenberg, M. (1965). Society and the adolescent self-image. Princeton University Press.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Rogers, C. R. (1951). Client-centered therapy: Its current practice, implications, and theory. Houghton Mifflin.
- Orth, U., & Robins, R. W. (2013). Understanding the link between low self-esteem and depression. Current Directions in Psychological Science, 22(6), 455–460.