自己肯定感と自己効力感の違いを知る

混同しがちな「自己肯定感」と「自己効力感」
「自分に自信がない」「もっと自分を信じたい」と思ったとき、多くの人が思い浮かべるのが「自己肯定感」という言葉です。
一方で、心理学には「自己効力感」という似た言葉も存在します。
この2つはよく混同されがちですが、実はまったく異なる心理的概念です。
- 自己肯定感=「自分という存在そのものを肯定する感覚」
- 自己効力感=「自分にはできるという信念・確信」
この違いを理解することで、自分の強み・弱みをより正確に捉え、効果的な自己成長につなげることができます。
自己肯定感とは何か?
定義と意味
自己肯定感とは、「自分をありのままに受け入れ、価値ある存在だと認める感覚」のことです。
心理学的には、「自己に対する肯定的な評価」とされ、英語では「Self-esteem」と訳されます(Rosenberg, 1965)。
自分が成功していても、失敗していても、「自分には存在する価値がある」と感じる感覚
高い自己肯定感の特徴
- 自分の良いところも悪いところも受け入れられる
- 批判や失敗に過度に動揺しない
- 人の目を気にしすぎない
- 人間関係で健全な距離感を保てる
自己肯定感の重要性
自己肯定感は、精神的健康や人間関係、挑戦への姿勢に強く影響します。
実際に、自己肯定感が高い人は、うつや不安、孤独感が低いことが多くの研究で示されています(Orth et al., 2012)。
自己効力感とは何か?
定義と意味
自己効力感とは、「ある状況で必要な行動を自分はうまく遂行できる」と信じる感覚のことです。
心理学者アルバート・バンデューラ(Bandura, 1977)が提唱した概念で、英語では「Self-efficacy」と言います。
「やればできる」「自分なら乗り越えられる」と思える感覚
高い自己効力感の特徴
- 新しい課題にも前向きに取り組める
- 失敗しても「工夫すればできる」と考える
- 学習・スポーツ・仕事などで成果を上げやすい
- 継続力やモチベーションが強い
自己効力感が高い人の行動傾向
バンデューラの研究によると、自己効力感が高い人は「成功体験」を積み重ねやすく、その成功がさらなる自信につながるという「自己強化サイクル」が働くことが分かっています(Bandura, 1982)。
自己肯定感と自己効力感の違いを図解で理解する
特徴 | 自己肯定感(Self-esteem) | 自己効力感(Self-efficacy) |
---|---|---|
主な対象 | 自分の存在そのもの | 自分の能力・行動 |
状況の影響 | 状況に左右されにくい | 状況ごとに変動しやすい |
感情の種類 | 「自分には価値がある」 | 「自分ならできる」 |
成り立ち | 幼少期の関係性や愛着が影響 | 成功・失敗体験の蓄積が影響 |
高いとどうなる? | 精神的安定・安心感・自信につながる | 行動力・挑戦・達成感につながる |
- 自己肯定感=「Being(存在)」の感覚
- 自己効力感=「Doing(行動)」の感覚
両者の関係性とバランスの大切さ
自己肯定感と自己効力感は、それぞれ独立した概念ですが、互いに影響を与え合うことがあります。
どちらかだけ高いとどうなる?
状況 | 傾向 |
---|---|
自己肯定感は高いが、自己効力感が低い | 「自分の価値はあるが、挑戦が怖い」 「やる気が出ない」 |
自己効力感は高いが、自己肯定感が低い | 「行動力はあるが、自分を責めやすい」 「完璧主義・燃え尽きやすい」 |
理想は「両方をバランスよく育てること」
- 自己肯定感があれば、失敗しても自分を責めすぎない
- 自己効力感があれば、目標に向けて行動できる
この両輪が揃ってこそ、安定した心と前向きな行動力を手に入れることができるのです。
自己肯定感・自己効力感を育てる実践法
自己肯定感を高める方法
- 完璧主義を手放す
- 失敗しても価値がある、という視点を持つ。
- 感情日記をつける
- 自分の気持ちや考えを毎日少しずつ書くことで、内面を肯定的に理解できる。
- 否定的セルフトークを修正する
- 「私はダメ」→「不安だけど挑戦している自分を認めよう」と言い換える。
- 無条件の愛を実感する関係性を大切にする
- 信頼できる人と「そのままでいい」と感じられる関係が、自己肯定感の土台になる。
自己効力感を高める方法
- 小さな成功体験を積み重ねる
- 「できた」経験が、自信を育てる。
- 目標を細分化する
- 達成可能なステップに分けて、成功率を上げる。
- ロールモデルを見つける
- 似た境遇の人が成功している様子を見ることで、「自分もできる」と感じやすくなる。
- ポジティブな自己暗示を使う
- 「私はこれまでにも乗り越えてきた」「大丈夫」と自分に語りかける。
まとめ:自分を信じる2つの軸を理解しよう
最後に、この記事の要点を振り返ります。
要点 | 内容 |
---|---|
自己肯定感 | 存在価値に対する肯定。 「私はこれでいい」と思える感覚 |
自己効力感 | 行動能力に対する自信。 「やればできる」と思える感覚 |
両者の違い | 自己肯定感=Being 自己効力感=Doing |
育て方 | 自己受容・成功体験・自己対話・環境づくりが鍵 |
参考文献・引用
- Rosenberg, M. (1965). Society and the adolescent self-image. Princeton University Press.
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
- Bandura, A. (1982). Self-efficacy mechanism in human agency. American Psychologist, 37(2), 122–147.
- Orth, U., Robins, R. W., & Widaman, K. F. (2012). Life-span development of self-esteem and its effects on important life outcomes. Journal of Personality and Social Psychology, 102(6), 1271–1288.