なぜ自己肯定感が低くなるのか?心理的背景から解説

- 「自分に自信が持てない」
- 「どうせ自分なんて…」
こんなふうに感じることはありませんか?
それはもしかしたら、自己肯定感が低くなっているサインかもしれません。
近年、教育やメンタルヘルスの分野で「自己肯定感(self-esteem)」の重要性が注目されています。
しかし、自己肯定感がなぜ低くなるのか、どこから来るのかについては、意外と知られていません。
本記事では、心理学的な観点から「なぜ自己肯定感が低くなるのか」について、背景となる理論や研究を交えて詳しく解説していきます。
自己肯定感とは何か?
まず前提として、「自己肯定感」の意味を整理しましょう。
心理学では、自己肯定感は一般的に「自己に対する肯定的評価」を指します(Rosenberg, 1965)。
つまり、「自分には価値がある」「自分を好きだと思える」といった感情が、自己肯定感の本質です。

自己肯定感が高い人は、失敗や批判に直面しても自分の存在を否定しません。
逆に、自己肯定感が低い人は、小さなミスや否定に強く傷つき、自己価値を低く見積もる傾向があります。
自己肯定感が低くなる5つの心理的背景
① 幼少期の養育環境
心理学者ボウルビィの愛着理論(Bowlby, 1969)では、幼少期の親子関係がその後の自己評価に大きく影響するとされています。
- 愛情表現が乏しい
- 否定的な言葉が多い
- 比較や評価ばかりされる
このような家庭環境では、子どもは「自分には価値がない」「認めてもらうには成果を出さなければ」と学習してしまいます。
特に、条件付きの愛(=良い子のときだけ愛される)を経験した子どもは、無意識に「自分らしさ」を抑え、他人の期待に合わせて生きるようになります。
その結果、自分の存在そのものを肯定しにくくなります。
② 過度な自己批判の習慣
自己肯定感の低さと深く関わるのが、「自己批判(self-criticism)」という思考パターンです。
心理療法の一つ「コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)」では、自己批判は脳の「脅威システム(threat system)」の活性によって引き起こされると説明されています(Gilbert, 2009)。
これは本来、生存のために備わった防衛機能ですが、現代社会では「失敗=脅威」と認識されやすく、過剰な自己否定につながります。
自己批判の例
- 「こんな自分はダメだ」
- 「また失敗した、自分には無理だ」
- 「他人と比べて自分は劣っている」
こうした思考が繰り返されると、脳は「自分は価値がない」という認識を強化していきます。
③ 社会的比較とSNSの影響
自己肯定感を下げる現代的要因として、SNSや他人との比較も無視できません。
フェイスブックやインスタグラムなどのSNSは、「理想的な自己」を演出する場として機能しています。
その結果、見えない他人と自分を比較し、「自分は劣っている」と感じやすくなるのです(Vogel et al., 2014)。
SNSと自己肯定感の関係
- フィルターをかけた「理想的な生活」が当たり前に見える
- 「いいね」やフォロワー数で価値を判断するようになる
- 他人の成功や充実感と自分の現実を比較して落ち込む
これにより、「本当の自分」を認める力が弱まり、他人の評価に依存する自己評価が強まってしまいます。
④ 学校・職場での評価主義的環境
日本社会では、学校や職場などの集団内での評価が重視されやすい傾向があります。
- テストの点数で優劣が決まる
- 上司や周囲の期待に応えることが求められる
- 空気を読む・同調することが良しとされる
こうした環境では、「自分らしさ」よりも「期待される役割」が重視され、自己表現よりも自己抑制が強化される傾向があります。
評価されなければ価値がない、と思い込むと、失敗や非難があるたびに自己肯定感が揺らいでしまいます。
⑤ トラウマや否定的な体験の蓄積
虐待、いじめ、パワハラ、恋人からのモラハラなど、強い否定的な体験も自己肯定感を低下させます。
こうした経験は、心理的外傷(トラウマ)として残り、「自分はダメな存在だ」という信念(コアビリーフ)を形成する原因になります(Beck, 1967)。
一度こうした信念が形成されると、人はそれを裏付けるような状況を無意識に選び、「やっぱり自分は価値がない」と確信を深めてしまいます。
これが自己肯定感の慢性的な低下につながっていきます。
自己肯定感を回復するには?
では、どうすれば低くなってしまった自己肯定感を取り戻せるのでしょうか?
以下は、心理療法でも使われる代表的なアプローチです。
自己理解を深める(=自己分析)
自己肯定感は「ある・ない」ではなく、「自分との関係性」で築かれていくものです。
まずは、自分の感情や価値観、行動のパターンを理解することから始めましょう。
自分への思いやり(セルフ・コンパッション)を育てる
セルフ・コンパッションとは、「失敗や弱さがあっても、自分に優しくする姿勢」です(Neff, 2003)。
厳しい自己批判をやめ、友人に対するようなやさしさで自分を扱うことが、自己肯定感の回復に大きく貢献します。
安心できる人間関係を持つ
人は、他者とのつながりの中で自分の価値を感じる生き物です。
安心して本音を話せる関係や、無条件で受け入れてくれる人の存在が、自己肯定感を支えてくれます。
まとめ:自己肯定感の低さは「ダメな証拠」ではない
自己肯定感が低いと、「自分は欠陥があるのでは」と思ってしまいがちです。
でも、それは心が「うまく適応しよう」とした結果なのです。
- 傷つかないために、自分を責めて予防線を張った
- 期待に応えるために、自分を抑え続けた
- 愛されるために、無理していい子を演じた
そのすべては、生き抜くための知恵だったのです。
だからこそ、自己肯定感を育て直すには、「自分の過去」を責めるのではなく、理解して寄り添うことが何より大切です。
参考文献・引用
- Rosenberg, M. (1965). Society and the adolescent self-image. Princeton University Press.
- Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss. Basic Books.
- Gilbert, P. (2009). The Compassionate Mind. New Harbinger.
- Vogel, E. A., et al. (2014). Social comparison, social media, and self-esteem. Psychology of Popular Media Culture, 3(4), 206–222.
- Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85–101.
- Beck, A. T. (1967). Depression: Clinical, experimental, and theoretical aspects. Hoeber Medical Division.